漫画『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』が映画化された渋谷直角さん。前回は原作漫画や映画について伺いましたが、今回は8月30日(水)に発売された新刊『コラムの王子さま(42さい)』について伺います。
『コラムの王子さま(42さい)』は、渋谷さんならではの絵や漫画が渾然一体となったコラム集。「気にするとこ、そこ!?」と思わず突っ込みたくなる妄想炸裂の本作について、たっぷりお話を聞かせていただきました。
- コラムの王子さま(42さい)
- 著者:渋谷直角
- 発売日:2017年08月
- 発行所:文藝春秋
- 価格:1,296円(税込)
- ISBNコード:9784163907093
「とても」の丸みボディをいつくしみ、「中指」の可哀想さを世間に喚起し、「お湯」のセルフプロデュースの高さに着目し……。森羅万象の「そこ!?」というものに過剰に思いをはせた、44本のコラム集です。
『コラムの王子さま(42さい)』は一冊まるごとかわいい “天使”の本
――『コラムの王子さま(42さい)』はタイトルもそうですが、収録されているコラムやイラスト、装幀に至るまで“一冊まるごとかわいい”という印象を受けました。
『コラムの王子さま(42さい)』を作っているときは、妖精というか、“天使”の本にしたいと考えていました。女性誌の連載なので、ネガティブなものや重苦しいものよりも、読んで気分が楽になるものにしたいなと思って、「何言ってるの!」と突っ込んでもらえるようなものを書いています。
タイトルに実年齢を入れたのは、“王子さま”を名乗ることへの照れですね(笑)。王子を名乗るというのはかなり強気というか、普段の自分からするとないパターンなんですけれど、今回は覚悟を決めてみました。
――本書は「CREA」で連載された「字意識過剰」というコラムを中心に収めたものですね。さまざまな言葉について、渋谷さんの妄想が炸裂しています。
僕はいわゆる「サブカル系」と言われていますが、その中でもマガジンハウス系なんですね。マガジンハウスの「relax」という雑誌でライターを始めて、その前から「Olive」なんかも読んでいました。カルチャー全般に興味があって、音楽や映画、漫画はもちろん、洋服やインテリア、雑貨とかも好きなんです。でもセンスがいい人は他にいっぱいいるから、同じことをやってもしょうがない。誰も触れないようなものを「かわいい」と言い出す感じです。
「字意識過剰」の連載にあたっては、「ひとつの言葉だけで話を転がせられないかな」と考えました。といっても、初めのうちは自分でも方向性がよくわからなくて(笑)。途中からだんだん「こういう内容のコラムなんだな」とわかってきた感じです。
一つの言葉に突っ込んで書いてみたかった
――なぜ“言葉”をテーマにしようと思ったのですか?
言葉って、言い回しをちょっと変えるだけで急に情感が出てきたりしますよね。例えば「ワイン」というよりも「ぶどう酒」のほうが甘美な響きがあるし、「ちょっと寝るわ」と「ちょっと横になるわ」では受ける感じがまったく違う。
「横になるというのはおもしろい言葉だな」「そういえばいつも、タテになってるんだな、人間も動物も建物も」「それに日本は縦社会だよな。その中で横になるって反抗的態度かも」と考えはじめると、これはこれでひとつの世界が広がっているんじゃないかと。今まで一つの言葉に対してそういうふうに突っ込んだことがなかったので、書いてみたいなと思ったんです。
――コラムを読んでいて、普段何気なく目にするものや使っている言葉がいとおしくなる感覚がありました。
「アニミズム」という、すべてのものに霊魂が宿っているという考え方がありますよね。僕にとっては「自動販売機の横のごみ箱」とか、「瓶のふた」みたいなものがキャッキャやっているように見える時があるんです。完全にアブナイ発言ですけれど(笑)、そういうときに「これ、かわいいな」と思ったりします。
――こういうふうに物事を見られたら、イライラせずに日々楽しく過ごせそうですね。
僕の頭の中って、わりといつもこんな感じなんです。日常で見たり、感じたりすることを書いています。
例えばお皿の上のお箸を1本落としちゃって、目の前に残りの1本だけが残っているときってすごく不安な気持ちになるんです。「ああ~!」みたいな。普通は「お箸もう1膳」とすぐ頼むところを言わないでしばらく待ってみると、どんどん不安になって「耐えられない」という気分になってくる。「1本だけ残っている」という状況が。じゃあ、この残った1本の箸自体の気持ちってどうなんだ、とか、そういうちょっとしたことにフォーカスしていくのが楽しいなって。
そういう「瞬間だけおもしろい」というネタはいっぱいあって。それが暮らしている中でほかのネタとくっついたり、「同じだ!」というものが見つかったりして1本のコラムになります。
「丸まった靴下」のかわいさにハマる
――ご自身で特に気に入っているコラムはありますか?
ひとつは「包む」というコラムですね。「包まれてるモノはだいたいかわいい」という話から、風呂敷や着物といった「包む」ことに自覚的な日本の文化ともつながっていく。本当はもっと掘り下げるとアカデミックなものになるんですけれど、あえてしないようにしてます。くだらないままで終わらせちゃいます。
渋谷直角著『コラムの王子さま(42さい)』より
「丸まった靴下」なんかも、こういうのがふいにハマったりするんです。いろいろなテイストのものが入っているので、読む人のその日のコンディションによって、染み入るものが違う本かもしれません。
渋谷直角著『コラムの王子さま(42さい)』より
文字と絵の“合成”から生まれるおもしろさ
――特別付録として、巻末には「かわいい王国図鑑」が収録されています。
これは「LARME」という雑誌に連載しているものです。「LARME」は10代の女の子が読者なので、10代の女の子に僕の「かわいくない?」と思うものを提案する連載にしようと考えました。こっちでは「タクシー」とか「31日」といったテーマが気に入っています。これくらいの文章量(約800字)だとどうしても説明が少なくなるので、「この人は色々マズイな」って雰囲気が出てますね。
――ひとつのネタで、世界がこれだけ広がるのはすごいですね。
自分の気持ちには正直に書いているんです。本当は「かわいい」と思っていないものを無理やりコラムのために何とかしようとはしていないし、この本の最初に収録された「とても」も、実際に自分の中でなんにでも「とても」とつけるブームがあったんです。そういうことが日常にいっぱいあって、そんな自分の生活には誠実に書いていますね。
――文章はもちろんですが、イラストも必見ですよね。渋谷さんが対象をどんなふうに擬人化して捉えているのかが、より伝わってきて面白いです。
僕の場合、絵一発というよりは、文字との合成というか、絵も情報なんです。文章の本でも毎回絵は入れていますが、今回は特にふざけてますね。
――『奥田民生になりたい~』の実写化、コラムの書籍化ときて、9月には『デザイナー渋井直人の休日』が発売されました。50代おしゃれデザイナーの悲喜こもごもが描かれた日常コメディで、自意識のこじれ具合とその“あるある感”が痛面白い作品です。
『奥田民生になりたい~』とも、『コラムの王子さま(42さい)』ともまた違う感じですよね。でもそれぞれ、アウトプットの仕方が少し違うだけで、モノの見方の根っこは同じなので、僕の中ではぜんぶフラットに愛おしいものとしてある、という感じなんです。
僕の本はだいたいトイレとかお風呂で読むのに向いています。あまり考えずに読んでいただくのがおすすめですね。
- デザイナー渋井直人の休日
- 著者:渋谷直角
- 発売日:2017年09月
- 発行所:宝島社
- 価格:1,134円(税込)
- ISBNコード:9784800274786
不惑を越えてなお、煩悩に悩むサブカル中年・渋井直人がおりなす、ペーソス溢れる日常を描いたショートストーリーの連発は、同世代だけでなく、広く読む者の心を突き刺すこと必至! ファッション誌『otona MUSE』にて連載中のコミックを書籍化。
細かいところもすごくこだわるタイプだという渋谷さん、『コラムの王子さま』のカバーにもこだわりが。折った部分が帯のように見えていて、開くと“言葉”たちが現れます。
裏側はブックカバーになっています。デザイナーの方と「どうなっていたらかわいいか」を相談しながら作ったそう。
本体も、コラムの内容にあわせて汗をかいているようなデザインになっています。
渋谷直角 Chokkaku Shibuya
1975年、東京都練馬区生まれ。1990年代後半にマガジンハウス「relax」誌でライターを務めながら、同誌で漫画も描き始める。著書に漫画『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール 完全版』『デザイナー渋井直人の休日』『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』、エッセイ『直角主義』『コラムの王子さま(42さい)』『ゴリラはいつもオーバーオール』など。「週刊SPA!」「CREA」「GINZA」「LARME」ほか連載多数。
オンライン書店「Honya Club.com」限定! 渋谷直角さんのサイン色紙が抽選で当たります。
「いつもハマっているものがある」という渋谷さん。『コラムの王子さま(42さい)』を作っているときは、渋谷さんの中で「空前のタコブーム」だったそう。本書には、「タコ」のコラムとあわせた描き下ろし漫画を収録。こちらもぜひチェックを!
〉サイン色紙の応募についてはこちらhttp://www.honyaclub.com/shop/e/etenbo69a/
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