出版業界内では輸配送問題への注目が高まっています。
この問題は、雑誌だけの話のようにとらえられがちですが、実は書籍に関しても送品量の偏りという大きな問題があります。
今回は新刊点数と売上や返品の関係について考えてみたいと思います。
新刊は月の後半に偏在
まず、日別の新刊点数を見てみましょう。下のグラフは、2016年2月~2017年1月までの日別の平均搬入点数を表したものです(日販調べ)。
▼日別平均搬入点数(2016年2月~2017年1月/日販調べ)
横軸に日にち、縦軸にそれぞれの日の搬入新刊が表されています。このグラフをぱっと見るだけで、新刊の点数が月の後半に偏在していることが見て取れます。
また、最も平均点数が少なかった4日と最大となった25日を比較すると、その差は約2倍に。点数に応じて、冊数も増えていくことになります。書店店頭や取次も、この業量を同じ作業時間でこなすためには相応の人員計画を組んでいく必要があります。
返品は月後半から月初に膨らむ
同様に、POS売上、返品の日別推移を見てみました。
▼平均売上・返品の日別推移(2016年2月~2017年1月/日販調べ)
POS売上、返品それぞれ1日の平均値を100%として、それと各日の比較を行いました。
新刊点数と売上の相関は見えづらく、新刊のピークとなる月後半は若干停滞します。一方で、返品は後半~月初めにかけて大きく膨らむ傾向にあることが見えてきました。
月末に処理が増える店舗、月が明けたタイミングで返品作業を行う店舗など、店舗によってさまざまな作業スケジュールが組まれているため、どの程度新刊点数の影響があるかは、ここからだけでは見えてきませんが、新刊点数が増えているからといって売上(はたまた客数)に影響があるということはなさそうです。
月後半搬入は返品が早い?
ここで気になるのが、返品の内容です。新刊、搬入点数が多いとその直前に発売された新刊も店頭に並ぶ既刊が短くなる(いわゆる“即返品”が増加する)と言われてきました。実態はどうなっているのでしょうか?
下の表は、ある月の返品の状況を調査した表です。搬入から14日以内に返品となった銘柄を調べ、搬入日別に分類しました。ジャンルごとにばらつきはあるものの、軒並み月の後半に向けてその返品率は上昇傾向にあります。
▼主要3ジャンル某月の返品状況
特に21日~25日に搬入された商品については、各ジャンルとも最高値を出しています。店頭に並ぶ既刊がほぼない、もしくは極めて短い状態で返品されている本の割合は、他の期間に比べて大変高いようです。
刊行サイクルの見直しも
物流現場においても、書店店頭においても、人員確保は大きな問題になってきています。新刊点数の平準化の取り組みは、こういった状況打破の一助になるはずです。
長年かけて構築されてきた新刊の刊行サイクルを変えることは容易ではありません。しかし、より読者の目に触れる機会を作るためにも、今がこの見直しの時ではないでしょうか。
また、一方で新たなインフラ整備も進んできました。その一つがJPO出版情報登録センター(JPRO)です。こちらのデータベースへ登録を行なうことで、近刊情報を書店に届けられるようになりました。事前に気づいてもらえる機会が増えれば、新刊の事前予約などにもつながりやすくなります。
現在、この情報をもとにした業量予測なども行なわれるようになってきました。「委託」というこの業界の最大の特徴とそのメリットを活かすためにも、業界三者が知恵を絞って取り組んでいきましょう。
(文化通信BB 2017年4月24日増刊より転載 ※一部編集)