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歴史小説の旗手・木下昌輝が読書会で出会った「全身が痺れた本」とは

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デビュー作『宇喜多の捨て嫁』以降発表作が次々と文学賞にノミネートされ、“歴史小説の旗手”として注目されている木下昌輝さん。

『宇喜多の捨て嫁』では、「妻の実家を滅ぼす」「娘の嫁ぎ先を娘ごと滅ぼす」といった冷酷ともいえる戦略で“ヒール”として成り上がった戦国大名・宇喜多直家を描き、迫力ある筆致とストーリー展開で5冠を達成しました。

そして4月25日(水)には、直家の息子・宇喜多秀家を主人公とした『宇喜多の楽土』が発売。秀吉の重臣として異例の出世を遂げながら、のちに辛酸をなめることになる“心やさしき俊才“秀家の人となりがいきいきと描かれます。

そんな木下さんは、デビュー以前から開催してきた友人たちとの「読書会」で日々刺激を受けているのだそう。今回はこれまでに読書会で出会った本たちについて、読書日記を寄せていただきました。

宇喜多の楽土
著者:木下昌輝
発売日:2018年04月
発行所:文藝春秋
価格:1,836円(税込)
ISBNコード:9784163906522

父・直家の跡を継ぎ豊臣政権の覇者となった秀家。関が原で壊滅し、八丈島で長い生涯を閉じるまでを描く傑作長編。

文藝春秋BOOKS『宇喜多の楽土』より)

【ツイッターで1分で読める「#記念日にショートショートを」発信中】
木下さんは、喜多喜久さんや水沢秋生さん、神家正成さんといった作家仲間とともに、ツイッターで「#記念日にショートショートを」という企画を実施中。1分で読めるショートショートが、バレンタインやエイプリルフールといった“記念日”に発信されており、今後は4月24日(火)のサンジョルディの日や4月28日(土)~5月6日(日)のGW、5月13日(日)の母の日に予定されています。

 

読書会で出会った本たち

デビュー以前から、私は友人たちと読書会を開いている。月に1回、当番制で課題本を選び、全員が読んで感想を言いあう。課題本のテーマは完全フリー。純文学あり歴史小説あり恋愛あり海外文学ありSFあり。こんな読み方があるのか、と視界が開かれる思いがするし、私が選んだ課題本をケチョンケチョンに言われてショックを受けることもある。

ちなみに司馬遼太郎の『戦国の女たち』という本を課題本に選んだら、女性陣からは大不評だった。「男性に都合のいい女性が描かれている」的なダメ出しが多かった。歴史時代小説の読み手の性差を突きつけられたような気がする。ちなみに、デビュー直後だったので、えらく落ち込んだ。

戦国の女たち
著者:司馬遼太郎
発売日:2006年03月
発行所:PHP研究所
価格:617円(税込)
ISBNコード:9784569665917

せっかくなので、今までの読書会で印象に残っている本をいくつかチョイスしてみた。

藤野可織の短編集『ファイナルガール』は、現実世界と不思議な出来事がたくみにミックスされている。誰も見つけられない屋上に閉じ込められたカップル、正体不明の優しくてお節介なストーカーなどなど、起きながら夢を見させられているかのような短編ばかり。個人的に好きだったのは「狼」という話。幼少時に現れた狼という不思議な存在を恐れる少年。狼に勝つために少年は筋トレに励み屈強な体を持つ青年になるが、思いがけない結末に。性差をこういう形でぶっ壊してくれるのか、と全身が痺れた。

ファイナルガール
著者:藤野可織
発売日:2017年01月
発行所:KADOKAWA
価格:821円(税込)
ISBNコード:9784041050743

歴史小説の参考になるのでは、と感じた課題本が古川日出男の『ベルカ、吠えないのか?』。旧ソ連の軍用犬たちが主人公で、犬たちの系譜の歴史小説とも読める。人がつくった国境や文化を、犬たちが軽々と飛び越えて、ついには宇宙へと行く。歴史小説はある程度有名な人物が主人公でないと成立しがたいが、『ベルカ、吠えないのか?』の手法を使えば無名の人物を主人公にした全く新しい歴史小説ができるのではないか。今はその方法を模索中である。

ベルカ、吠えないのか?
著者:古川日出男
発売日:2008年05月
発行所:文藝春秋
価格:691円(税込)
ISBNコード:9784167717728

他にも大変な誤読をして恥をかいたテッド・チャンあなたの人生の物語』、モチーフの描き方について考えさせられた吉田篤弘つむじ風食堂の夜』、おぞましい官能に魅了される桜庭一樹私の男』なども忘れがたい。

読書会には何人か作家さんも参加している。1984年に『贋マリア伝』で直木賞候補になった津木林洋さん、小学館eBooks『九十九神曼荼羅シリーズ』の青木和さん、そして『カプセルフィッシュ』で小説宝石新人賞からデビューした大西智子さんだ。

先月(2018年4月)の読書会の課題は、メンバーである大西智子さんの新刊『にんげんぎらい』。東大阪の町工場で働く主婦の枯れた日常を、生々しい筆致で描く。タイトルから予想できるように、人間の醜さをこれでもかとしつこくスケッチしている。最後に少しだけ救いがあるのもいい。

にんげんぎらい
著者:大西智子
発売日:2018年03月
発行所:光文社
価格:1,836円(税込)
ISBNコード:9784334912116

ちなみに『にんげんぎらい』では、私が帯のコピーを書かせていただいた。そんな縁もあり、今回の読書会だけは「帯−1グランプリ」なるものも開催。もし『にんげんぎらい』の帯コピーの依頼がきたら、である。私は「性と濁 大西智子の文章は、いつも美しく穢れている」というコピーを帯に寄稿したが、これと同じくらい迷ったコピーがもうひとつあったので、そちらで参戦。

無記名で各自の自信作をホワイトボードに羅列し、いざ決戦投票。プロ作家の私が大量得票かと思いきや、蓋を開けてみるとたったの1票。大賞はMさんの「無色透明な毒を呑まされたかもしれない」だった。ちなみに私のコピーは「超キケン! 大西智子の文章は、パンティをはかずに迫ってくる」だ。後日、大西賞を特別にいただいた。

結果に納得はいかないが、来月も来来月も読書会はやってくる。来来月は私が課題本を選ぶ番だ。単に面白い本ではなく、解釈や読み方で議論になる本を探すのも醍醐味のひとつ。読者のみなさまもぜひ、読書会を開いてみてほしい。きっと新たな本の魅力に出会えるはずだ。

木下昌輝 Masaki Kinoshita
1974年奈良県生まれ。近畿大学理工学部建築学科卒業。ハウスメーカーに勤務後、フリーライターとして関西を中心に活動。2012年「宇喜多の捨て嫁」で第92回オール讀物新人賞を受賞し、2014年『宇喜多の捨て嫁』で単行本デビュー。同作は直木賞候補となり、2015年第2回高校生直木賞、第4回歴史時代作家クラブ賞新人賞、第9回舟橋聖一文学賞を受賞。2作目の『人魚ノ肉』は第6回山田風太郎賞の候補となる。2017年2月、『天下一の軽口男』が第38回吉川英治文学新人賞候補に、5月には『敵の名は、宮本武蔵』が第30回山本周五郎賞候補、第157回直木賞候補などに選出される。

宇喜多の捨て嫁
著者:木下昌輝
発売日:2017年04月
発行所:文藝春秋
価格:799円(税込)
ISBNコード:9784167908263
敵の名は、宮本武蔵
著者:木下昌輝
発売日:2017年02月
発行所:KADOKAWA
価格:1,728円(税込)
ISBNコード:9784041050804

 

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