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「歌ってみた」で人気の伊東歌詞太郎が小説家デビュー!『家庭教室』インタビュー【前編】

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動画投稿サイト「歌ってみた」で人気を博し、2014年にメジャーデビューを果たしたシンガー・ソングライターの伊東歌詞太郎さん。今年5月には小説家としてもデビューし、第1作『家庭教室』が発売後2か月で累計5万部に達するなど話題を呼んでいます。

家庭教室
著者:伊東歌詞太郎
発売日:2018年05月
発行所:KADOKAWA
価格:1,404円(税込)
ISBNコード:9784048961417

『家庭教室』は、家庭教師のアルバイトをしている20歳の大学生・灰原巧が、時に家庭教師としての範疇を超えて、派遣先の家庭それぞれが抱える問題に向き合っていく物語。自身も家庭教師をしていたという伊東さんの経験がふんだんに盛り込まれており、なかでもいじめの問題については“当事者”でもあったことから、その深刻さを強く訴えかける内容となっています。

今回は、小説家としてデビューするに至った経緯から本作で描きたかったことまで、伊東さんにたっぷりとお話をうかがいました。

伊東歌詞太郎 Kashitaro Ito@kashitaro_ito
トレードマークの狐のお面と、抜群の歌唱力を武器に、動画投稿サイトの「歌ってみた」カテゴリで人気が急上昇。2012年1月10日の動画初投稿から1年も経たないうちに自身の投稿動画は総再生数1,100万回を達成。現在の動画総再生数は5,800万回を超える。Twitterフォロワー数は73万人以上。2014年に1stアルバム「一意専心」でメジャーデビュー。オリコンウィークリーランキングでは初登場4位を獲得。2015年、2ndアルバム「二律背反」でもオリコンウィークリーランキングベスト10入りを果たす。2017年には10曲全て本人作詞作曲による3rdアルバム「二天一流」をリリース。また、年間1000冊以上を読破したことがあるほどの本好きでもある。

公式ホームページ
http://kashitaro.com/index.html

 

『家庭教室』は、本が大好きだから「書いてみた」

――『家庭教室』は、どういったいきさつで書かれたのですか?

小説を書いた理由は2つあって、一つは本がものすごく好きで単純に書いてみたかったから、もう一つは今年の1月末に喉の手術をして、執筆のための時間があったからです。

昔売れないバンドをやっていた頃、時間だけはたくさんあったので、年に1,000冊以上読んだこともあったんですよね。好きなことはやってみたくなる性格なので、音楽が好きで始めたのと同じように、読むだけで満足するのではなくて、書くことにも挑戦してみようと思っていたんです。

そんなときに喉の手術を受けることになって、そうすると術後数か月は、ヴォーカリストとしての活動はおろか、声を出すことすらできなくなる期間があるだろうなと。「だったら家にこもっている間に本が書けるな」と思っていたら、ちょうどいいタイミングでKADOKAWAさんにお声掛けいただいたんです。

――本作は約400ページある長編ですが、1か月で書き上げられたそうですね。

編集者との打ち合わせで「どのくらいの期間で書けますか」と聞かれたのですが、なにせ初めてのことなので、見当がつかない。「少なくとも1か月は声が出せないだろうな」という軽い考えで、「2月いっぱいですかね」と答えてしまったんですよね……。そうしたら「わかりました」と言われて、本当に1か月で書き上げることになってしまいました。メチャクチャきつかったです!

――「わかりました」とおっしゃった編集の方も大胆ですね(笑)。

本当ですよね。ちなみに原稿を渡した後に「小説家の方は、みなさんこのくらいのペースで書かれるんですか?」と聞いたら、「僕の編集者人生では初めてですね」っておっしゃったんですよ(笑)。だったら「そのスケジュールは無理がある」とはじめに教えてほしかった……。4月の刊行記念イベントで中村航さんと対談させていただいた際にも、中村さんに「え? それは無理でしょ」と冷静に言われてしまいました。

 

“小説家”の自分が、ミュージシャンとしての休止期間を支えてくれた

――とはいえ、締め切りを守られたのはすごいですね。1冊書き上げてみていかがでしたか?

自分は「書くことも好きなんだな」と実感しました。毎日、平均して10時間以上ずっとパソコンに向かっていたので、それは好きでないとできないことですよね。

僕は音楽を一日中やっていても、まったく苦にならないタイプ。もちろん睡眠と食事の時間は必要ですが、今回、本を書くこともそれに当てはまるなと思いました。

――本の形になったときは、感慨もひとしおだったのでは?

書き終えた瞬間は、実はあまり達成感がなかったんです。「発売日を迎えたら実感がわいてくるのかな」「時間が経つにつれて実感が高まっていくのかな」と思っていたんですが、1か月以上経った今、むしろ「本当に自分が書いたのかな」と思っています。

いまはライブの準備に入っているので、感覚としては“ミュージシャンの伊東歌詞太郎”なのですが、この本については、“小説家の伊東歌詞太郎”が一生懸命がんばってくれたんだなと思っています。今回、手術のためにミュージシャンとしては休まざるをえない期間ができてしまったのですが、その間を“小説家の伊東歌詞太郎”がしっかり支えてくれて、今の自分を後押ししてくれている気がします。

 

当事者だからわかる「いじめは命の問題」というメッセージ

――本作の主人公は、20歳の大学生である灰原巧。彼は講師をしていた塾をある事情からクビになり、そのことをきっかけに、生徒だった“羽田くん”のお父さんから家庭教師先を紹介されるようになります。

病気のために走れなくなってしまった陸上選手や、家庭の問題で不登校になってしまった少年、ある特殊な才能が発端となって“人の怖さ”を知ってしまった少女など、生徒が抱える問題はさまざまですが、各エピソードはどのように考えられたのですか?

僕も家庭教師や塾講師を実際にやっていたので、作中には自分の経験をふんだんに盛り込んでいます。以前から小説を書きたいという思いはあったので、数年前から温めていたプロットもあるんですよ。

伝えたいことがある、描きたいことがあるからこそ作品を作る。それが僕にとっての芸術なのですが、『家庭教室』の各エピソードも、それぞれ描きたいテーマがあって書いています。

――どの章も「いかに生きるか」「人生において何を大切にするか」ということが描かれていますが、なかでも“いじめ”を取り上げた第6章「受験戦争」は、重い問題を扱った作品ですね。

僕自身、小学校の6年間、ひどいいじめを受けていました。成人式のときに一緒になった同級生に、「俺、お前のこといじめてたって周りに言われたんだけど、そんなつもりはなかった。でもお前も、もしそう思ってたんならマジごめんな」と言われたんです。

その時に、僕にとっては命を脅かされる問題だと思っていたけれど、いじめる側、見ていた人にとっては「ああ、この程度なのか」ということがよくわかった。「当事者でないとその深刻さはわからないんだな」と。「いじめは命の問題なんだよ」ということを社会に投げかけたかったので、その思いが色濃く出たのでしょうね。

――このお話は、人格を歪められることで心に“ハンデ”を背負わされてしまう「いじめの本質」についても、経験された方ならではの視点で描かれていますね。

いじめに遭えば、どうしても歪みは出てしまう。人を殺してはいけないのは当たり前。でも命は奪われなくても、「人格を歪められること」がどれほどのことなのかを考えてみてほしいんです。

一度歪められてしまったものは、決して元通りにはならない。その歪みをしっかり見つめて、「こうやって自分の人生に活かせばいいんだな」というところを見つけないと、その先の人生が破綻してしまう。僕はいま、こうやって取材してもらえるからそのことについて伝える機会があるし、作品として表現することもできるので、広く知ってもらいたいなという気持ちがあります。

――この一編を最終章に持ってこられたところに、強いメッセージを感じました。

アルバムを作るときにも、ワンマンライブでどの順番で歌ったらお客さんが満足してくれるかと考えて、曲順を決めるんです。1曲目から聞いてもらって、初めにこういう気持ちになって、中盤こう変わって、最後にどう感じてほしいか。そう考えると、どうしても終盤にある曲のほうが時間的にも直近なので、印象に残りやすいですよね。だから、最後のほうに自分の言いたいことが特に詰まっている曲を入れ込んだりします。

『家庭教室』も、エピローグとプロローグの間をライブのセットリストのような感覚で並べたので、結果としてそういう気持ちが表れたのかもしれませんね。




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