全国の書店員さんが一押し本を紹介する連載「わが店のイチオシ本」。第16回にご登場いただくのは、香川県高松市にある宮脇書店本店の藤村結香さんです。
今年5月に亡くなった絵本作家・かこさとしさんの自伝、『未来のだるまちゃんへ』を紹介してくれました。
- 未来のだるまちゃんへ
- 著者:加古里子
- 発売日:2016年12月
- 発行所:文藝春秋
- 価格:713円(税込)
- ISBNコード:9784167907587
かこさとしさんの創作の原点がわかる本
今年5月2日、「だるまちゃん」シリーズを始め、多くの作品を生み出した絵本作家、かこさとし(加古里子)さんが92歳で亡くなられました。半世紀以上にわたり、本当にたくさんの親子に愛される絵本を描き続けたかこさん。亡くなる前日まで、仕事に関することを口にされていたそうです。
宮脇書店本店は、香川県の県庁所在地・高松の中心にある町の本屋さんです。私自身、小さい頃からよく親に連れられて、ワクワクしながら訪れていた大切な場所です。
毎日多くの新刊が出る中で、数十年前からのロングセラーが常に陳列されている絵本コーナー。その代表格であり、最近も新刊が出て話題になっていた作品が「だるまちゃん」シリーズです。
伝統玩具がモチーフの愛らしいキャラクターたちが楽しく遊ぶ様子は、たくさんの子どもたちに今も愛され続けています。このだるまちゃんに込められた思いとは何でしょうか。
今回ご紹介する『未来のだるまちゃんへ』は、かこさんが自身の半生を振り返り、絵本創作の原点となるエピソードを語った1冊です。
今を生きる私たちへの大切なメッセージがここにある
太平洋戦争で日本が敗戦した時、19歳だったかこさんは、自分を含む大人に失望し憤激したそうです。戦争に負けたことで、これまでのすべてがひっくり返った。同級生たちは死んでしまった。たまたま近視だったために兵隊になれなかった自分は、死にはぐれた存在だ……。ならば、これからの人生では、子どもたちのために何か出来る存在になりたい。生き直す気持ちでそう決意し、今でいう市民ボランティア「セツルメント」活動に励み、そこで出会った子どもたちから影響を受けて、「だるまちゃん」シリーズや『どろぼうがっこう』といった作品を生み出していきました。
本書に書かれている言葉で、とりわけ深く心に残ったのが、第五章の「これからを生きる子どもたちへ」の中の一節でした。
かこさんはなぜ絵本で「大勢」を繰り返し描くのか。それは〈この世界は多様であり、自分はそのどこか端っこにいる。(中略)でも「端っこも世界なんだ」、そう言いたいんだと思います。真ん中だけがエライんじゃない、端っこで一生懸命に生きている者もいるんだよ〉という考え方をしていたからだそうです。
それを子どもたちから学んだというかこさん。この生き方、言葉は、今を生きる私たちにとって大切なことではないでしょうか。絵本を読んだ後はぜひ、こちらの本にも手を伸ばしてほしいと思います。
◆作り手からのメッセージ◆
「生きるということは、本当は、喜びです」―子どもたちへの想いが込められた、国民的絵本作家初の自叙伝です。ボランティア活動で出会った尊敬してやまない子どもたち、サラリーマンとの二足のわらじ生活、自身の子育てなど、秘話がたっぷり。すべての親子へ贈る、 かこさとしさんからのエールです!(文藝春秋 文春文庫部 石塚智津さんより)
- 未来のだるまちゃんへ
- 著者:加古里子
- 発売日:2016年12月
- 発行所:文藝春秋
- 価格:713円(税込)
- ISBNコード:9784167907587
迷い道の人生、絵本創作の原点……『だるまちゃんとてんぐちゃん』など、数多の人気絵本を世に送り出してきたかこさとし。19歳で敗戦を迎え、態度を変えた大人に失望した著者は、「子どもたちのために役に立ちたい」と、セツルメント活動に励むようになる。そこでは、絵本創作の原点となる子どもたちとの出会いがあった──。国民的人気絵本作家が、自身の人生について初めて語った記念すべき自叙伝。サラリーマンとの二足のわらじ生活、自身の子育て、震災と原発事故を経て思うことなど、秘話が盛りだくさん! 絵本に込めた願い、尊敬してやまない子どもたち、「生きる」とはどういうことか……柔らかい口調そのままの文体で読みやすく、深い含蓄のある言葉に励まされる内容です。『ぐりとぐら』で知られる中川李枝子さんが、かこさんとの知られざる邂逅について綴った文庫解説も必読!
店舗紹介
宮脇書店 本店(Tel.087-851-3733)
〒760-0029 香川県高松市丸亀町4-8
※営業時間 9:00~22:00
(「日販通信」2018年7月号「わが店のイチオシ本」より転載)
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