昨年11月に発売された『本の本 夢眠書店、はじめます』の電子版が、6月8日(金)に配信スタートしました!
……ということで、「夢眠書店開店日記」第17話のテーマは〈電子書籍〉。紙の本も電子書籍も扱うハイブリッド型総合書店「honto」の方々に、意外と知らないあれこれを伺っています。
- 本の本
- 著者:夢眠ねむ
- 発売日:2017年11月
- 発行所:新潮社
- 価格:1,620円(税込)
- ISBNコード:9784103513810
今回の対談相手
(写真左から)
星野秀輔(ほしの しゅうすけ)
株式会社トゥ・ディファクト ハイブリッドサービス企画部
Web制作会社を経て2012年トゥ・ディファクトに入社。デザイン・技術を活かしたサービス設計を主に担当。hontoブックカバーサービスやオフィシャルマガジン「honto+」(ホントプラス)の一部営業も担う。
山根健裕(やまね たけひろ)
株式会社トゥ・ディファクト ハイブリッドサービス企画部
2011年トゥ・ディファクト入社。ハイブリッドサービス企画部に配属され、hontoのサービスローンチと以降の改善に従事。主にプロモーションなどを担当。
福田敬(ふくだ たかし)
株式会社トゥ・ディファクト ハイブリッドサービス企画部
大手ECサイトの開発プロデューサを経て、2014年トゥ・ディファクトに入社。「リアル書店とネット書店の融合」ハイブリッドサービスを日々模索、特にスマートフォン上のサービス開発に力を注いでいる。
電子書籍ってどんなふうに「出版」して「売る」の?
夢眠:そういえば私、以前この連載で出版取次を取材して「モノとしての本の流れ」について教えていただいたんですが、電子書籍はどんなふうにして世の中に配信されるんですか?
福田:たとえば今回配信される『本の本』ですと、まず紙の本が出版されましたよね。電子版も内容が同じであれば、電子版制作のために使用するおおもとのデータは基本的に同じです。それを電子書籍用のフォーマットに直して、電子書籍取次を通して各販売サイトで配信できるようにしたり、もしくは取次を介さずに販売サイトで直接配信したりするんです。電子版の制作については、出版社様自身が行なう場合もありますし、弊社で行なう場合もあります。そのパターンによってもコストの構造は変わる、ということなんです。
夢眠:すでに紙である本を電子書籍にするときは、honto側から出版社に「これを電子書籍で配信したい」と提案することもあるんですか?
福田:そういうケースもありますが、今は出版社様が「両方出す」というふうに決めて、リリースされるという形が主流になっています。honto側での配信NGは、基本的にはありません。
夢眠:最近は、SNSで作品を発表している方が電子書籍だけで本を出すっていうパターンもありますよね。それは、どういう経緯でそうなるんでしょう?
福田:紙の本を出版するというのは、まだハードルが高いんですね。電子書籍だと「何万部売れないと利益が出ない」というラインが紙の本に比べて低いので、本にしやすいというのはあると思います。
夢眠:そうか。「電子書籍なら床が抜けない」っていう話と同じで、紙の本は売れないと“在庫”になっちゃいますもんね。書店の売り場だって、置ける期間やスペースは限られてますし。そういうところも違うのかあ……。とはいえ「電子書籍最高じゃん!」っていうのは、やっぱり魂を売っちゃった感じがして抵抗がある(笑)。
星野:電子書籍で売れ行きがよかったから、紙の本が発売されたという例もあるんですよ。ちょうど今年の3月に販売されたものなんですけど……。
夢眠:あっ、ボイメンだ!
星野:もともとデジタル写真集として販売されたものが好評で、「紙でも欲しい」というお客様からの声が多かったんです。それで限定受注生産のオンデマンド本として紙で制作し、hontoで販売しました。BOYS AND MENメンバーのソロバージョンと全員バージョンがあるんですが、紙版だけの特典などもお付けして……。honto限定販売ということもあって、予約の段階から非常に売れ行きがよかったです。
夢眠:買った人の気持ち、すごくわかります。それにデジタルは一度しか買えないけど、紙なら複数冊買ったりもできますからね。
山根:そうなんですよ。“布教活動”としていろんなバージョンを買って、お友達に配ったりとかもしていらっしゃるみたいです。
夢眠:ちなみになんですけど、電子書籍界隈って、私がいきなり参入できたりするんですか? たとえば「夢眠書店」としてのZINEみたいなものを、自分で作って電子版だけ販売したりとか。
星野:個人でも電子書籍を作成・出版できるプラットフォームというのがあるんですよ。現在hontoを運営している弊社も、「パブー」というプラットフォームを提供しています。
本屋さんみたいな「売り方」のテクニック
夢眠:せっかくなので、“電子書籍を売る”ということについてもう少しお話を伺いたいです。電子書籍って、売れ方に特徴はあるんですか?
星野:ジャンルでいうと、コミックが一番売れています。なかでも大人向けやティーンズラブ(TL)、ボーイズラブ(BL)は相性がいいですね。リアル書店や書籍通販といった“紙の本”は文芸書やビジネス書のほうが売れていますが、電子書籍ストアになると売れ行きの傾向がガラリと変わります。
夢眠:売り方についてはどうでしょうか? たとえば紙の本って、帯に著名人がコメントを寄せると効果があったりするじゃないですか。あとは「この本の隣に置く」という並べ方によっても売れ行きが変わったりとか。そういう工夫って、電子書籍だとどんな例があるんでしょう?
星野:hontoでは「hontoブックツリー」という、新たな本との出会いを創出するためのサービスを展開しています。キュレーターがテーマを設定して5冊選んで紹介するというもので、単独の1冊では得られない気づきとか、キュレーターを務める著名人のファンの方に「この人はどんな本が好きなんだろう?」と興味を持っていただくことが目的です。サイトでも公開していますし、最近は書店店頭でフェアとしても展開して好評でした。
夢眠:その本を選んだ意図もわかるし、その中で気になる本があったら、その本を軸にして「この本が含まれているほかのブックツリーはあるか?」「その著者のほかの本は?」「その本に興味がある人は、ほかにどんな本に興味を持っているのか?」というふうに世界を広げていくこともできるんですね。
星野:そうです。最初からブックツリーを見に行ってもいいし、欲しい本を検索した人に「この本はこのキュレーターが選んでいますよ」「こんなテーマで選んでいますよ」というふうに見ていただくこともできる。そういう仕組みになっているんです。
福田:電子書籍の購入やお気に入り登録の履歴からレコメンドを表示する機能は、ほかのECサイトにもありますよね。hontoブックツリーは人間が何らかのテーマで5冊選んでいるので、機械に選ばれたのとはちょっと違う“味”が生まれるんですよ。
山根:履歴データを基にしたレコメンドだと結構偏りがあったりしますからね。人間がアナログに選ぶと、「そうきたか」「なるほど」っていう予想外の出会いを生み出せると思うんです。
夢眠:本屋さんにおすすめを聞いている感覚ですね。温度があっていいなあ。
「本を買いに来てもらう」からの転換が“最初の一歩”をつくる
夢眠:夢眠書店は、普段あまり本を読まない人とか、本に対して「怖い」って思っている人も入ってきてくれるような本屋さんにしたいんです。本好きの人には「本が怖い」っていう感覚がわかりづらいかもしれないんですけど、「読書って勉強だな」とか「本を読むのは苦しい・楽しくないことだ」と思っている人って結構いるんです。そういうタイプの人にとって「こんな楽しさもあるんだよ」っていうきっかけをあげたくて。hontoさんは〈まだ本好きでない層〉に対して、どんなアプローチをしていますか?
星野:入り口を近づける、ハードルを下げるということが重要と思っています。ここ最近ですと、LINEのアカウントを作って、あまり本を読んでいない方に対して「まずは無料で漫画を読んでみませんか?」というふうにご提案したりしています。それで、まずhontoを利用してみていただくと。
夢眠:なるほど。ゼロ円だと、気負わずすんなり入れますよね。
福田:電子書籍の利用者が増えたことそのものの背景にも、電子コミックサイトの影響って大きかったんですよ。「専用のデバイスを持たないと読めないんじゃないか」という意識をお持ちの方も多くて、そもそも「本をスマホで読む」というのが感覚としてなかったりとか。それがスマホで、しかも無料で読めるコミックのサービスがどんどん増えて、「スマホで読書をする」という体験が浸透して、行動として自然になってきているという印象があります。
夢眠:確かにそうですね……。
星野:あとは3月にファッション通販のZOZOTOWNさんと取り組んだんですが、ZOZOTOWNで5,000円以上お買い物をした方に、hontoで使える1,000円分の電子書籍クーポンをお届けするということも実施しました。
夢眠:本以外のネット通販を使っている人に、「本も買えるよ」と。
星野:まさにそういう意図です。これはかなり反応がよくて、もともとネット通販に慣れていらっしゃるので「サイト内を回遊して自分の好きなものを探す」ということをhontoでも自然にされていました。あとは「honto+」というオフィシャルマガジンを月に一度発行していまして、さまざまな切り口から本を紹介するような記事を掲載しています。お笑いトリオ「ロバート」の秋山竜次さんがさまざまな架空のクリエイターに扮する「クリエイターズ・ファイル」の連載もしていて、動画をはじめ、書籍化や展覧会の開催などでも話題になりました。
夢眠:私、Instagramをもっと使えないかなあって思ってるんですけど。
星野:私たちも含め、おそらくいろんな書店様・出版社様が考えていらっしゃると思うんですけど、「読書をする」という行動をして、さらにそれが習慣になるというところまで考えたときに、ずいぶん段階があると感じています。Instagramを使ったマーケティングはまだ十分にできていませんね。
夢眠:夢眠書店のInstagram作りたいな。フリックしてそのまま買えたら、もっと気軽に本を読んでもらえるかもしれないですよね。